歴史を振り返って、人と猫との関係をみてみましょう。猫の起源はおよそ13万年前。中東の砂漠に生息していたリビアヤマネコが祖先といわれています。人間のパートナーになったのは9万5千年前。キプロス島にある遺跡から人と一緒に埋葬されているネコ科動物の遺骨が発見されています。紀元前4000年のエジプトでも猫は大切にされていました。農耕文化が始まり、穀物を食い荒らすネズミを駆除するため猫が家畜化されたのです。紀元前3000年には猫は神として崇拝されるようになりました。
猫が日本に渡来したのはおよそ2000年前の弥生時代。稲作伝来時に穀物を守る動物として重宝されたといわれています。平安時代には宇多天皇の日記「寛平御記」に登場するなど、日本においても昔から猫は愛されてきました。「一家に1匹、猫を飼いましょう」と提唱したのは、新千円札の人物に選ばれている医学博士の北里柴三郎です。愛猫家でもある北里博士が猫の飼育をすすめたのは、ペスト菌を媒介するネズミが家に侵入するのを防ぐためでした。
長い歴史の中で人は猫を自然から人間社会に連れてきました。猫はもはや自然に帰ることはできません。「野良猫」「ノネコ」と呼ぼうとも、猫はすべてイエネコ。家の中で人にお世話されて生きるペット動物(家庭動物・伴侶動物)です。
狂犬病予防法で登録が義務付けられている犬と違い、猫については登録の義務はありません。けれども、猫を家族の一員として迎えたら、責任を持って適正に飼育する責任があります。猫の寿命は人の寿命の4分の1から5分の1。猫の最期を見とどけるのも飼い主の務めです。飼い主責任をまっとうするためにも、個体識別は必須。マイクロチップは個体識別の有効な手段になります。都市化された現代社会では、「完全室内飼育」が猫にも人にも地域にも幸せな付き合い方でしょう。なお、「動物愛護法」でも、「遺棄」「虐待(ネグレクト)」は懲役1年または100万円の罰金。殺傷する「虐待」は懲役5年または500万円の罰金と定められています。
猫が路上生活を余儀なくされているのは、人間の無責任が原因です。動物福祉・動物愛護に反するばかりでなく、地域環境と公衆衛生の問題につながります。とはいえ、責任の所在を明らかにすることは難しいでしょう。猫の繁殖力を考えると、最優先となるのは去勢・不妊手術です。行政が主導して地域とボランティアが協力し、飼い主のいない猫への去勢・不妊手術を推進する。手術済みの猫は地域で見守りお世話して共生するのが問題解決への第一歩になります。
猫が外で暮らさなければならないのは動物福祉に反するネグレクトの状態といえますが、すべての猫を保護しようとすれば、多頭飼育崩壊に陥りかねません。しかし、近い将来には「ひと昔前は外で暮らす猫がいたのだって」「へえー」という会話が交わされるような時代になるといいですね。ただし、飼い主不明の犬が行政によって捕獲・殺処分された過去のような方法ではなく、行政とボランティアが連携協力する倫理的な進め方で「猫の路上死ゼロ」を願っています。
少子高齢化・核家族化の時代。飼い主の高齢・認知症・入院・入所・死亡によって飼い猫が行き場を失うことは少なくありません。ペットは民法上、財産。相続人が猫も相続してくれると良いのですが、猫を引き取れる親族がいない場合も。飼い主を失った猫については、行政の福祉部門と動物部門とボランティアが連携協力し、猫を一時保護して新しい飼い主を探し、「第二の猫生」につなげる仕組みが必要です。